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2021.11.10
コラム

コラム:意匠担当者の悩み事(相原 靖志)

初めましての方は初めまして、お世話になっている方はいつもお世話になっております。
企業で商標・意匠担当をしております相原靖志と申します。
(分科会のZOOMのアイコンに馬の顔が表示されていることがあると思いますが、あれが私です。)

今、iPadを使ってこの原稿を執筆していますが、私が初めて"知財"を強く意識したのは、Apple社とソーテック社の事件でした。
事件の詳細について私から申し上げることはございませんが、子供の頃から学校のパソコンも自宅のパソコンもMac一筋だった私にとって馴染み深いiMacを守る法律があるということは非常に興味深いものでした。その後、HEROのような法律家の活躍を描いたドラマが好きだったこともあり、法学部に進み、大学で峯会長と出会い、紆余曲折を経て現在まで知財の世界に身を置いております。

話が脱線しつつあるので、本題に移らせていただきます。
企業の意匠担当者の悩み事として、「意匠の価値」をどうやって計るか、どうやって数字として"見せる"かということがあります。企業においては、製品/サービスに関する意匠を単に権利化する"のみ"では評価がされなくなっております。これは特許も同様ですが、単なる権利化による自社製品/サービスの保護や権利化による他者牽制効果のみならず、競合他社へのライセンス等による知財に基づく収益への貢献や権利行使による直接的な事業貢献が求められます。

この点、意匠は権利行使につながることが少なく、意匠権取得による牽制効果を"見せる"ことが非常に難しいように思います。すなわち、自社の意匠を意匠担当者が戦略的に権利化し他社牽制効果を十分に発揮した結果として他社が意匠回避を行ったとしても、その事実を立証することもできませんし知財に基づく収益への貢献や事業への貢献を"数字"として示すことは非常に難しいです。

特許のように意匠もライセンスすれば良いという発想もあるかとは思います。しかしながら、競合他社から特徴的なデザインが同じ製品が発売されるということは、ライセンス収入以上に事業戦略上デメリットになると考えられます。

権利行使に関しては、通常、大手各社の製品はそれぞれにデザイン的特徴があるためそもそも似たデザインにはなりにくいこと、及び意匠担当者がしっかりと意匠調査を行い他社意匠権の回避をするため、模倣品やデッドコピー品、廉価版製品等を除き、通常の競合他社間において意匠権侵害に至るケースは稀です。稀に問題になったとしても、水面下での交渉によりデザイン変更で和解することが多く、特許のように大きな"数字"として現れることは少ないように感じております。

このような状況下において、「意匠の価値」を特許と同様の "数字"で説明するのには限界があり、何か違うアプローチで「意匠の価値」を説明し、事業における意匠の重要性を明らかにすることができないか?最近、私はそんなことを思うようになりました。

そんな今の私にとって、このデザインと法協会の活動は、まさにうってつけのものであると感じております。

社内のコミュニケーションや業界団体での活動において、経験豊富な諸先輩方からアドバイスをいただくことはありますが、それは"企業担当者"の視点からのアドバイスとなります。

これに対して、デザインと法協会は、デザイナー、弁理士・弁護士、企業担当者という普段は異なる道をそれぞれ歩む者がひとときの間邂逅するため、自身と異なる視点の意見に触れることを通じて新たな発見が生まれる、意匠の「交差点」となる場所であると感じております。

デザインと法協会の分科会活動を通じて、「意匠の価値」をより多面的に検討し、「意匠の価値」を示すことができるようになれば、事業における意匠の重要性を可視化することができ、ひいては企業における意匠担当者の大きな悩みの解消につながるのではないか、と考えております。

末筆ではございますが、皆様方と比べますと圧倒的な未熟者ではございますが、皆様との貴重な時間をお互いにとって価値あるものにすることができるよう精進して参りますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。