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2021.08.22
コラム

コラム:新理事就任のご挨拶(松野 由香)

こんにちは、もしくは初めまして。今年度、当協会の理事に就任いたしました株式会社内田洋行の松野由香と申します。浅学菲才の身ではございますが、どうぞよろしくお願い致します。

ちなみに「内田洋行」は「うちだようこう」と読み、創業者の氏は含まれますが名前ではございません。社名の由来にご興味のある方はぜひ一度弊社WEBページをご覧いただけましたら幸いです。

https://www.uchida.co.jp/company/corporate/history.html

さて、今回協会事務局からコラムを書くように、との指令が下りまして、僭越ながらキーボードに向かっております。(筆をとっております、と書きかけましたが毛筆は高校を卒業して以来20年以上握ったことがありません。そもそも最近筆記具で文章を書く、という機会はとんと減ってしまいました。)

私は普段、企業の知財担当者として業務に当たっておりまして、開発されている製品・サービス・コンテンツ等々に関する知財についての対応を日々行っています。

日常的な業務の中で(外形としての)デザインに関わる点としては他社の意匠権の調査を行ったり、デザインを保護するために意匠権の出願検討をしたりしています。また、コンテンツ等の著作権について対応することもあります。その中でしばしば出会う問いが『「良いデザイン」とは何なのか』ということです。

「好きなデザイン」ならわかるのです。皆さんもそうだと思いますが、日常的に何かを選択するときにデザインについて「これは好きだな」「これはそうでもないな」という基準で選ぶことはよくあります。「基準」という言葉を使いましたがまさに「好き嫌い」の話ですので、(少なくても私にとっては)明文化して何か説明できるというものではありませんが、自分自身が「好き」なものは確かにありますし、それが他者にもあるのだろう、ということは比較的容易に理解ができます。

しかし「良いデザイン」とは何なのか。業務にあたっている中では「このデザインは良い、悪い」という会話は比較的よくでてきます。非常に単純化して考えればヒットしたプロダクトのデザインはおそらく会社に利益をもたらしたという点で「良い」のでしょう。でもそれは結果論でしかわかりません。もっと言えばヒットの要因が本当にデザインなのか、これも本当のところは検証するのがとても困難だと感じています。また反対に「悪いデザイン」というのは何なのか。もちろんお客様にケガをさせてしまうようなデザインは許されませんが、売れないプロダクトのデザインは果たして「悪い」のか?もちろん企業として「良いデザイン」のプロダクトをお客様に提供したいという矜持は常にあると信じていますが、果たして企画、開発段階で考える「良いデザイン」とは何なのか。著名なデザイナーさんに依頼すればよいのか、極限までユーザビリティを追求すればよいのか。いつも開発者との議論をしながらもやもやと考えていることですが今も答えはありません。

......というようなことを考えているとある方にお話ししたところ「文化の力 カルチュラル・マーケティングの手法」(青木 貞茂 NTT出版 2008)という書籍をご紹介頂きました。この原稿を書いている時点でまだ読了していないのですが(申し訳ございません。)「文化」と「マーケティング」をテーマにした興味深い本です。この本に「良いデザイン」の答えがあるわけではないのですが「好き嫌い」「良い悪い」とはまた別の「文化」という軸、もしくは文脈を提示してくれている本だなと感じています。

「良いデザイン」とは何か、という問いに対して誰もが納得するような明確な答えを出すことはおそらくできないのでしょう。でも少なくてもこの問いを手放してしまってもいけないのだと思います。私自身はデザイナーではないのでこのような疑問を持つこと自体がおこがましいことですが、一方でこの問いを手放してしまうと一企業の知財担当者として誠実にデザインに向かい合うことができなくなってしまうのではないか、とも感じます。これからも日々悩み、惑っていく所存です。

さて、最後に一つ宣伝をさせてください。私は当協会において「事業におけるデザイン価値」をテーマにした分科会をお預かりしています。現在は、毎月色々なお立場でデザインに関わっておられる方に「事業におけるデザイン価値」をテーマに大変興味深いお話をして頂いております。8月度は休会しておりますが9月度から再開いたしますのでご興味のある方は是非一度覗いてみていただければ幸いです。(Zoomによるオンライン開催ですので、当協会の会員の方は地理的制約なくご参加可能です。)

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

株式会社内田洋行
松野 由香